本当の理由 of 医薬品通販禁止令と対応

医薬品のネット通販が禁止された本当の理由

楽天・三木谷社長の怒り

楽天・三木谷社長楽天・三木谷社長2009年6月1日に施行された改正薬事法は、大衆薬(一般用医薬品)の流通を一変させた。ところが、同法の施行官庁である厚労省が、2009年2月に具体的運用を定める『省令』を出したことが大騒動を巻き起こす。改正の目玉は、新資格の「登録販売者」を置けば、薬剤師がいなくてもコンビニやス:パーで医薬品を販売できることだった。その一方で、今まで認められてきた通信販売は、リスクが比較的低いもの(第3類)を除いて禁止された。
これに噛みついたのが、楽天市場に医薬品販売を行う加盟店を出店させている楽天・三木谷社長だった。「厚労省は詳しい調査もせずに、医薬品のネット販売を規制しようとしている。しかも役人は法律でなく省令によって(買いたいと希望する)国民の権利を奪おうとしており、憲法違反なのではないか」すでに省令の内容が明らかになっていた2008年11月7日の決算発表の席上、国への怒りをこうあらわにした。省令は、大手量販店を利する一方で、中小薬局の経営を直撃した。

父親の代から東京・大田区で薬局を営むある社長は、1995年からネットでも医薬品販売を始めたが、「年商の半分がネットや電話を通じた通信販売。禁止されれば死活問題だ」と頭を抱えた。この薬局の売れ筋は、約100種類をそろえた漢方薬だ。

漢方薬は取り扱う薬局やドラッグストアが少なく、このため来店客が引っ越した後でも電話注文したり、ロコミで評判を聞いた遠方の消費者が、ネット注文する収益の柱。これが半ば取り上げられるのだからたまったものではない。

楽天などの調査によれば、ネット販売で医薬品を購入した経験のある人は852万人に達する。利用者の多くは昼間忙しい人や、近所に薬局がない山間へき地、離島に住んでいる人、身体に障害があったり家族の介護などで外出できない人であり、それに対面販売では購入するのが恥ずかしいと思える薬や、妊娠検査薬などを買うケースが多い。

こうしたニ-ズを背景に、医薬品のネット通販は、非対面性や時間・地域の制約がないことを特長とすることから年々売り上げを伸ばしてきた。医薬品マーケットは、大手ドラッグチェーンが出店攻勢をかけていることで、街中にある薬局-薬店の経営は苦しいが、自らネット販売を始め、売り上げを伸ばしてきたところも多い。売り方を工夫したり、自社でしかない伝統的な薬や漢方など、独自に処方した薬ならネット販売を使えば会社の規模の大小にかかわらず売り上げを増やすことができる。

ネット販売は顧客の利便性向上だけでなく、小規模薬局が生き残る上でも欠かせない有力な販売チャンネルになっていた。中にはいかがわしい"薬"を売って犯罪になるケースもあるが、これは別問題。これまで楽天などの仮想商店街を通じて販売された中で、「健康被害にあったという報告は一件もない」(三木谷氏の先の会見)という。薬局や利用客が望んでいて、健康被害もなく、医薬メーカーも反対していないのに、なぜ国および厚労省は、通販を規制しようとしたのか。

「省令での販売禁止は憲法に抵触する」

改正薬事法で大きく変わったのは薬の分類と販売方法である。従来は薬剤師が常駐する店でしか扱えなかった医療用医薬品(要処方箋)と、一般用医薬品(風邪薬や胃腸薬、解熱鎮痛薬など)、それにスーパー、コンビニで販売可能だった医薬部外品(栄養ドリンク、うがい薬など)3種類だったが、これに副作用の危険度によって以下の3類に分けた。

Real_col_Book.png第1類医薬品(特にリスクが高いもの)=薬剤師のみが販売。ガスター10(胃腸薬)、リアップ(発毛薬)、ラミシールAT(水虫薬)など。

Real_col_Book.png第2類医薬品(リスクが比較的高いもの)=薬剤師または登録販売者が販売。パブロンSゴールド(総合感冒薬)、バファリンA40(解熱鎮痛薬)、コーラック(便秘薬)、正露丸(下痢止め)。

Real_col_Book.png第3類医薬品(リスクが比較的低いもの)=薬剤師または登録販売者が販売。チョコラBBプラス(ビタミン製剤)、イソジン(うがい薬)、アイボン(洗眼液)など。

改正法ではリスクの最も高い第1類医薬品は、対面販売者を薬剤師に限定した。第2、第3類は新設の「登録販売者」でも扱える。この見直しによりスーパーやコンビニは、規制緩和の恩恵にあずかることができた。ところが、省令は対面販売を原則としたため、販売時の情報提供義務のない第3類を除き、通信販売は認められない。

「厚労省はスーパー、コンビニで買えるから利便性に何ら問題はないというが、対面販売で買えない、買いたくないという人の実情がまったく分かっていない。結局は誰がネット販売に反対しているのかといえば薬剤師団体です。自らの権益を犯されたくない既得権者が圧力団体となって動き、それに薬剤師資格のある厚労省の技官が呼応して動いた結果です」(医薬品業界関係者)

通販を手掛けるのは薬局だけではない。ネット販売大手のケンコーコムでは、売上高の7%(08年3月期)に当たる5億円強が医薬品だ。地方の製薬会社の風邪薬や対面では買いにくい妊娠検査薬、水虫薬、育毛剤などが売れ筋という。

「Yahoo!ショッピング」では、約500店が医薬品を販売している。ネットを含む医薬品の通販は260億円(日本オンラインドラッグ協会推計)と、大衆薬市場全体の4%弱にすぎないが、成長市場であることは確かだ。

ケンコーコム後藤社長ケンコーコム後藤社長第1類、第2類医薬品の販売を禁止された楽天やヤフーなどのネット関連企業は、安全性の確保と消費者の利便性を主張し、規制反対を唱えているが、昨年5月には、ケンコーコムとウェルネット(横浜市)が、省令取り消しなどを求めて、国に訴訟を起こす事態になっている。

薬剤師不足が叫ばれる中、既存のドラッグストアチェーンなどにとっては、薬剤師に比べて安価な人件費で販売の人材(登録販売者)を確保しやすくなる。消費不況に苦しむコンビニなどの小売業にとっては、新たな商機。セブン-イレブンやファミリーマートは、すぐさま一部店舗で登録販売者を採用し、医薬品の販売に注力した。

登録販売者の試験は「3ヵ月(1日2時間)ほどの勉強を積めば7-8割が合格する」と言われているが、1年間薬剤師の指導の下、販売経験を積むという条件がある。薬剤師にとっては、薬局、ドラッグストアチェーンという既存市場に加えて、小売業全般に資格を求められることになり存在価値が高まる。

消費者にとっても、あらゆる場所で医薬品を「ついで買い」できるようになる、流通にとっては、うれしい規制緩和。その一方で、医薬品の通信販売を手がける事業者だけが、商機を失った

しかし不思議なことに、改正薬事法には、「ネット販売禁止」とはどこにも書かれていない。ただ、厚労省が改正薬事法の施行規則を定めた「省令」にのみ書かれている。ここが実に不可解なのだ。

厚生労働省令(規程)

(郵便等販売の方法等)
第十五条の四 薬局開設者は、郵便等販売を行う場合は、次に掲げるところにより行わなければならない。
一 第三類医薬品以外の医薬品を販売し、又は授与しないこと。
二 当該薬局に貯蔵し、又は陳列している第三類医薬品を販売し、又は授与すること。
三 郵便等販売を行うことについて広告をするときは・当該広告に別表第一の二に掲げる情報を表示すること。
2 薬局開設者は、新たに郵便等販売を行おうとするときは、あらかじめ、様式第一の二による届書を都道府県知事に提出しなければならない。

当時の舛添要一厚労相の指示で「出直し」検討会が開かれたものの、あくまで「対面販売」にこだわる日本薬剤師会や厚労省など『薬剤師派』と、規制を撤廃したい『ネット派』の議論は平行線をたどり、結局、時間切れとなって昨年6月1日の施行日を迎えることとなった。

なぜ、医薬品の通信販売は禁止されたのか。それは、古くからある薬剤師会や日本チェーンドラッグストア協会などの業界団体が「店舗での対面販売は安全だが、通信販売は危険である」と主張し、厚労省がその主張に乗ったからだと言われている。

サリドマイド事件は薬局の対面販売により発生した。
大日本製薬が独自の製法を開発し、1958年1月20日に「イソミン」の名称で薬局において対面販売を開始、1959年8月22日には胃腸薬「プロバンM」に配合して薬局で対面販売した。
東京の都立築地産院では1959年から1961年までに3例のフォコメリア児の出産が報告されるなど、全国で被害が生じたが、大日本製薬は当時西ドイツに研究員を派遣するなどして情報を入手していたにもかかわらずこれを無視し薬局で対面販売を続けた。
また厚生省も1962年2月に亜細亜製薬(あじあせいやく)のサリドマイド剤「パングル」を認可するなど、世界の大勢を全く無視し続けた。

なぜ、対面販売が安全なのか。厚労省などの見解は「直接、薬剤師や登録販売者が副作用などのリスクを顧客に説明できるから」と説明している。では、なぜ通信販売は危険なのか。同省などの主張は「直接、顧客に副作用等のリスクを説明できず、顔色をうかがうこともできない」からだという。

だが、このロジックは破綻しているというのは、厚労省の検討会にも委員として出席した某大教授だ。「患者本人との対面が原則だと言うならまだ分かるが、省令では『代理人でも構わないから店に買いに来い』となっている。
代理人の顔色をうかがっても患者の病状は分からない」。確かにその通りだ。

何も変わっていない街の薬局

街の薬局街の薬局実際改正薬事法施行後も、一般用医薬品の購入に身分証の提示などの『本人確認』は行われていない。これまで同様、会社の従業員が医薬品をまとめ買いして、オフィスに「置き薬」として備蓄することも可能である。

改正薬事法においては、特にリスクの高いとされる第1類に分類される商品は、文書による情報提供が義務づけられ、リスクが比較的高いとされる第2類は、情報提供を「努力義務」とされた。その運用も破綻している。

パブロンエースAX錠パブロンエースAX錠東京・某区にある街中の処方箋薬局。医師の処方箋が必要な調剤薬が中心で、一般用医薬品もおまけ程度にショーケースに並んでいる。「風邪薬をください」と言うと、「どんなの?」と聞く。故意に情報提供が義務づけられている第2類であるパブロンを指定すると、「パブロンね」「錠剤?、穎粒?」「錠剤をください」というと、「パブロンエースAX錠」をショーケースから出し、「はい。1280円」と薬剤師。代金を支払って終了である。

ユンケル黄帝ゴールドユンケル黄帝ゴールド大手ドラッグストアでも同様だ。A店では第2類のドリンク剤「ユンケル黄帝ゴールド」を、B店では同じく第2類の禁煙補助ガム「ニコレットガム」と、妊娠検査薬「チェックワンデジタル3回用」を購入。結果は、すべてにおいて説明は何もなかった。ちなみに、ネットでは、これら医薬品の販売は原則禁止だ。

現場では改正薬事法によって、医薬品の販売者は変わったが、売り方は何も変わっていない。改正法施行直後に証明されたロジックと運用の破綻。国の指針を決める政府が、不完全なロジックで新たな規制を作ってしまっただけだ。なぜ厚労省は最後まで省令を押し通したのだろうか。

「天下り先となっている財団法人と、薬剤師会など古くからの業界団体との関係が密接であり、それにおもねったとしか考えられない」(医療ジャーナリスト)

いくら天下り団体が突出して多い厚労省とはいえ、。パブリックコメントで国民の97%が反対した政策を天下り先確保のためだけに押し通すだろうか。

当時、世論は政権交代に大きく傾いていた。自民党は旗色の悪い総選挙をにらみ、票田の確保に必死だったのだ。三木谷社長は、医薬品のネット通販禁止と票をバーターにした証拠を示している。それは、日本薬剤師連盟から国会議員などへ渡った献金額などを示すリストで、独自の調査で作り上げものだ。

津島雄二元厚相津島雄二元厚相これによると、連盟による政治献金等の金額は、2005年から2007年の3年間で、14億2700万円に上った。内訳は、麻生太郎総理へ800万円、厚労族のドン津島雄二元厚相へ1220万円など。自民党関連に9億円ものカネが渡っていた。


第1類・第2類医薬品のネット通販禁止と"ヤミ取引"は別問題

犯罪事件にしばしば登場する「睡眠導入剤」。入手するには医師の処方箋が必要で、譲渡も『麻薬および向精神薬取締法』で規制されている。だがネットのサイトを通じてヤミ取引が常態化し、犯罪に悪用される例が後を絶たない。これはネット通販を規制しても解決できない問題だ。なぜなら入手先として目立っているのが薬局だからだ。

厚労省によると、向精神薬が盗まれたり、偽造やコピーされた処方箋が使用されたりして詐取されるケースが頻発している。

バイアグラ50mgバイアグラ50mgまた、ネットで入手したED(勃起障害)治療薬の6割近くが偽造品といわれる。ファイザー、バイエル薬品、日本イーライリリー、日本新薬の4社がそれぞれ販売するED治療薬「バイアグラ」「レビトラ」「シアリス」の3種類に対して調査が行われたことがある。

この調査の実施時期は、2008年12月~2009年4月だった。

3種類のED治療薬は、ネット上の販売サイトからこれら製薬会社が購入し、真正か偽造品かについて鑑定した。購入は日本国内からだけでなく、タイで日本人が偽造ED治療薬の販売に関与しているケースがあったため、タイでは現地でネット購入している。

その結果、購入品の55.4%がニセモノで、真正品は44.6%だった。国別では日本で購入したものは43.6%が偽造品、タイで購入したものについては、67.8%が偽造品だった。

こうした偽造品製造国は、4社によると中国、南米、中東などで偽造工場の存在が確認され、不衛生どころか、セメントミキサーで混ぜるなどの実態が明らかになっている。EDは人に相談しづらいし、病院に行くのも気が重い。そこへいくとネット購入にはこうした気兼ねや気後れがない。

そこをヤミ製造者、販売者は狙うのである。これもネット販売を禁止したところで防げるものではない。摘発もさることながら、患者自身も疑ってかからなければならない。

ED治療薬はヤミ販売者にとって利幅が大きい。これが流通する理由である。同じように抗インフルエンザ治療薬「タミフル」も需要と利幅が大きいことで知られる。日本国内では限られた製薬会社しか輸入できないこともヤミ流通・販売に拍車をかける一因だ。

タミフルタミフルタミフルはスイスに本社のある医薬品メーカー「ロシュ」が製造しており、国内では「中外製薬」のみが輸入販売元として承認されているが、個人が個人で輸入することは原則禁止されていない。

この「タミフル」を個人輸入を装って輸入し、ネットのホームページ上で不特定多数に宣伝することは、薬事法違反(未承認医薬品の広告)になる。この容疑で、2010年2月3日大阪府警は、大阪市にある個人輸入代行業「TEN」など複数業者を逮捕した。

確かに医薬品のネット通販は、このようにヤミの部分があるが、これと第1類、第2類医薬品のネット通販禁止とは別問題だ。政府に翻弄されたこの問題も、民主党政権下で変わるかもしれない。

Go to the concrete methodGo to the concrete methodGo to the concrete methodGo to the concrete method